「肩がつらくて……」というご相談はとても多いです。
ただ、よくお話をお聞きしてみると、いわゆる首〜肩の重だるい「肩こり」とは違って、
・腕を横から上げていくと、ある角度でズキッとする
・夜、寝返りを打つたびに肩が痛くて目が覚める
・エプロンの紐を結ぶ、後ろポケットに手を入れる動きがつらい
……そんな「動かすと肩そのものが痛い」タイプの方が少なくありません。
お話ししているとき、よく耳にするのが 「前にも一度、同じように痛くなったけど自然に治ったんです」という言葉です。
あるいは、「知り合いがマッサージに通ったらすぐ治ったと言っていました」というお話もよく出てきます。
正直に言うと、私はこの言葉を聞くたびに、いつも少しだけ考え込んでしまいます。
「前は自然に治ったのに、今回はなかなか……」。その違いには、ちゃんと理由があるかもしれません。
というのも、「四十肩・五十肩」とひとことで言われているものの中には、実はいくつかタイプがあるからです。
主に筋肉の緊張や使い方のクセが原因になっている、いわば「こり寄り」の肩の痛みもあれば、 肩の奥で関節を包んでいる袋(関節包)が、かたく縮んでしまうタイプの肩の痛みもあります。
マッサージだけでスッと良くなったというケースは、おそらく前者だった可能性が高いだろうな、と私は感じています。
それはそれで「そのときは軽く済んでラッキーだった」とも言えますが、今の肩が同じ状態とは限りません。
このブログでは、そんな「今度の肩の痛みは、前とちょっと違う気がする」という方へ向けて、お話をしていきたいと思います。
ほとんどの肩の痛みは、筋肉の問題や四十肩・五十肩など、いわゆる整形外科的なトラブルです。
ただ、ごく一部には、肺や内臓など体の中の別の病気が原因で、肩や肩甲骨まわりが痛くなることもあります。
・じっとしていてもズキズキ強く痛む
・夜間に痛みが増して眠れない
・咳や呼吸の苦しさ、体重減少、熱っぽさが続いている
・腕から手にかけてしびれや力の入りにくさが出ている
・もともとがんの治療歴がある
こういった症状がいくつも重なっている場合は、整体に来る前に、まずは整形外科や内科など医療機関でのチェックを最優先にしていただきたいと思っています。
私の整体院では診断行為は行っておらず、このブログもあくまで一般的なお話にとどまりますが、「こういう肩の痛みは一度お医者さんで診てもらった方がいい」という目安を、頭の片隅に置いておいてもらえると安心です。
「これは整体より先に病院だな」というサインを見逃さないことも、体を守るうえで大事なことだと思っています。
いわゆる四十肩・五十肩と呼ばれるものの多くは、医学的には「凍結肩」「癒着性関節包炎」といった名前がついています。
肩の関節は、ボールと受け皿のまわりを「関節包」という薄い袋が包んでいるのですが、ある時期からこの袋に炎症が起きて、だんだん分厚く・縮こまってしまうことがあります。
最初は少し動かしただけでズキッと痛み、そのうち痛みは落ち着いても、 「ここから先にどうしても行かない」という可動域の壁だけが残る──。
これが、よく言われる四十肩・五十肩の典型的な流れです。
そして、この「関節包が縮んでしまっているタイプ」の肩の痛みは、正直なところ表面からのマッサージだけでどうにかできるものではありません。
もちろん、まわりの筋肉のこわばりをゆるめることは大切ですし、それによって痛みが和らいだり、動かしやすくなったりもします。 でも、「袋そのものの縮こまり」までは、外側から直接手で触れることができないのです。
今は整体院をやっていますが、その前は整形外科に勤めていて、そこで肩のリハビリも担当していました。
そのときは、ただ手で触るだけではなく、エコー検査の機械を当ててもらいながら、肩の奥の様子を一緒に確認することがよくありました。
初めて四十肩・五十肩の方の肩をエコーで見せてもらったとき、正直、ちょっとショックを受けました。
本来なら、薄くてきれいな膜のように映っているはずの関節包が、ところどころ分厚くなり、もやっとした帯のように見えているのです。
当時の私には、それが「のりで固められたストッキング」のように見えました。 教科書で「癒着」とひとことで書かれているものが、目の前で動かない肩として映し出されている……そんな感覚です。
その映像を見て以来、私の中では「マッサージだけで四十肩が一瞬で治る」というイメージは、どうしても持てなくなりました。
むしろ、
・どの方向に動かすと関節にとって都合がいいのか
・どこまでなら安全に動かしていいのか
・呼吸や肋骨、肩甲骨の動きをどう合わせるとスムーズになるのか
そういったことをひとつひとつ確認しながら、少しずつ可動範囲を広げていくことの大切さを、身をもって感じるようになりました。
派手なことはしませんが、「どう動かすか」を一緒に探していくことが、いちばんの近道だと今は思っています。
めがね先生の整体院では、医療機関のような画像検査や診断は行っていません。 その代わり、これまでの整形外科での経験と、武道や整体で学んできた体の使い方の知識をもとに、 今のあなたの肩が「こり寄り」なのか、「凍結寄り」なのかを、丁寧な問診と動きのチェックから整理していきます。
そのうえで、
・力を抜きやすい呼吸のしかた
・肋骨や肩甲骨を一緒に動かす感覚づくり
・痛みの出ない範囲から始める、肩関節の「正しい方向」の運動
・日常生活の中で、無理なく続けられるセルフケア
こういったものを組み合わせながら、「前より少しだけ上がる」「夜の痛みが少しラク」という小さな変化を積み重ねていくイメージで進めていきます。
昔のように「自然に治る」ケースも確かにあります。 でも、今回の肩が前回とは違う状態になっているなら、同じように放っておくだけでは、時間ばかり過ぎてしまうかもしれません。
「前に一度よくなったから、今回もそのうち……」と、どこかでブレーキをかけている方にこそ、 一度当院での施術の中で、今の肩の状態や動かし方を一緒に見直していけたらと思っています。
このブログが、そうした一歩を踏み出すきっかけになれば嬉しいです。
※このページの内容は、私が過去に整形外科で勤務していた際の経験や、現在の整体院での考え方をまとめたものであり、医療機関での診断や治療に取って代わるものではありません。 強い痛みや不安な症状がある場合は、まずは医師の診察を受けてください。