「平地はなんとか歩けるけれど、階段だけは毎回ヒヤッとする」「一段目を踏み出した瞬間に、膝の前がズキッとする」。こんなお話を、膝のご相談でよく伺います。
そのとき、多くの方が一番に気にされるのは当然膝そのものですが、実際の現場で体を見ていくと、先に整えたいのは呼吸・足裏・前傾のしかた・お尻の使い方だったりします。ここが整うと、膝を直接いじらなくても「さっきより楽に上り下りできる」という変化が出てくることが少なくありません。
階段の上り下りは、平地よりも膝にかかる負担が大きい動きです。体重を持ち上げたり、下ろしたりするたびに、膝まわりの筋肉や関節にはそれなりのストレスがかかります。
そこで問題になるのが、「膝だけで頑張ってしまう」パターンです。胸を張って腰を反らせたまま階段に向かうと、重心が後ろ寄りになり、膝の前で体を引き上げるような動きが増えます。足裏では親指の付け根や指先だけで床を蹴り、上半身はほとんど前に傾かず、膝だけが前に出ていく──この組み合わせが揃うと、膝の前側に負担が集中しやすくなります。
逆に、呼吸でお腹の内側が少し安定していて、足裏の3カ所(かかと・親指の付け根・小指の付け根)で静かに体を支えられていると、お尻と太もも全体で体重を受け止める余地が生まれます。すると、「同じ階段を上り下りしているのに、膝だけが頑張っている感じ」が少しずつ薄れていきます。
いきなり「正しい階段の上り方・下り方」を完璧にしようとすると、それだけで疲れてしまいます。おすすめは、一段目に足を乗せる前に、その場で10〜20秒だけ使い方をリセットすることです。
まずは、立ち止まった状態で口をすぼめてフーッと息を吐いてみてください。だいたい5秒くらいを目安に、少し長めに吐きます。吐いていく途中で、胸が少し落ち着き、おへその奥がスッと締まるような感覚が出てくれば、それが簡単な「お腹の内側がそっと固まる」状態です。胸は大きく張らなくて大丈夫です。
次に、足裏に意識を向けてみます。かかと・親指の付け根・小指の付け根、この3カ所にそっと体重を分けるように立ち直してみてください。足指で床をギュッとつかむ必要はありません。むしろ、指先は少し長く伸びているぐらいがちょうどいいです。
そこから、腰ではなく股関節のところから、ほんの2〜3cmだけ前に傾くイメージを持ってみてください。上半身が少しだけ前に行くと、自然と重心が階段のほうへ移り、お尻と太ももの後ろで体重を受けやすくなります。この状態を作ってから、一段目に足を乗せてみる──これが、シンプルですが大事な準備になります。
上りで痛みや不安が出やすい方は、「片足を段に乗せたあと、膝の前側で体を引っぱり上げている」ことが多いです。そうではなく、段に乗せた足の“お尻側”で体を押し上げる感覚に切り替えていくのがポイントです。
具体的には、先ほどの準備(息を吐く→お腹の内側を少し固める→足裏3カ所→軽い前傾)を作ってから、踏み出す足を「置く」つもりで段に乗せます。ドンと蹴り出すのではなく、かかと・親指側・小指側にそっと体重が広がるように着地します。
そのあと、膝を前に突き出すのではなく、お尻をぐっと前上方に押し出すイメージで体を持ち上げると、力の入りどころが少し変わります。最初は大げさに意識してもかまいません。「膝で上がる」から「お尻で押す」へ、少しずつスイッチを入れ替えていく感覚です。
下りは、上り以上に怖さを感じる場面です。よく見かけるのが、体をぐっと後ろに引いたまま、膝を伸ばして段の角で「ガツン」と受け止めるような下り方です。これでは、膝に急ブレーキをかけながら降りているようなものです。
下りる前にも、やはり一度息を長く吐いて、お腹まわりを安定させるところから始めます。そのうえで、ほんの少しだけ股関節から前傾し、重心を段の中心側へ寄せておきます。体がわずかに前にある状態で、一段ずつ足を「置く」ように下ろすと、膝だけで体重を受け止める感覚が和らぎます。
歩幅は大きくしすぎず、段の奥まで足を引き込むように使ってみてください。膝は伸び切らず、いつでも少しクッションが効く状態を残しておくと、怖さも少し減ってきます。
階段で膝がつらい方の多くに共通しているのが、
・胸を大きく張ったまま、腰を反らせて上り下りしている
・親指の付け根だけで強く蹴る/足指で床をつかんでいる
・膝をピンと伸ばし切って、段に体重を預けている
といったクセです。
これを一度に全部変える必要はありません。まずは「一段目の前で、息を5秒吐く」ことからでも十分です。そこに慣れてきたら、足裏3カ所への意識を足してみる。さらに余裕があれば、股関節からの軽い前傾と「お尻で押す/受ける」感覚を試してみる。そんなふうに、少しずつ置き換えていければOKです。
Q. まずはストレッチや筋トレをした方がいいですか?
A.
もちろん、それらがまったく不要というわけではありません。ただ、階段での痛みが強い時期は、いきなり負荷の高い運動よりも、「息を吐く→足裏を整える→軽く前傾する」といった小さな準備のほうが現実的です。可動域や筋力は、使い方を変えるだけでも一部は引き出せるので、まずはそちらから試してみるのも一つの方法です。
Q. 膝サポーターはつけたほうがいいですか?
A.
痛みが強い日や、どうしても階段の回数が多い日などには、短時間の補助としてサポーターが役立つ場合もあります。ただし、「サポーターさえつけていれば安心」と頼り切ってしまうと、動き全体が固まりやすくなります。サポーターを使うなら、ここでご紹介したようなフォームの工夫とセットで取り入れていただくのがおすすめです。
階段での膝痛の中には、早めに医師の評価を受けたほうがいいケースも含まれます。
・膝の熱・腫れ・赤みが強い、ケガの直後に急な激痛が出た
・膝が動かせない、途中でガクッと抜ける感じが続く
・発熱を伴う痛み、夜間にズキズキして眠れない痛みが続く
こういった場合は、セルフケアより先に医療機関での評価を受けてください。そのうえで「使い方も見直したい」となったときに、整体や動きのトレーニングが力になれる場面が出てきます。
めがね先生の整体院では、まず呼吸の入り方・足裏3カ所の支え方・股関節からの前傾・踏み出し方や着地のクセを一緒に確認していきます。どこで膝に負担を集めてしまっているのかを、動きの中で整理するイメージです。
そのうえで、短時間のソフトな調整で全身のこわばりをやわらげ、お尻とお腹で体重を受けやすい状態を作っていきます。実際の階段動作や、日常の上り下りに近い動きを使いながら、「膝で受ける階段」から「お尻で受ける階段」へと、少しずつ上書きしていきます。ご自宅でできる簡単なホームワークもお伝えしています。
階段で膝が痛いとき、つい膝そのものだけに目が行きがちですが、息を長く吐いてお腹の内側をそっと固めること、足裏3カ所で体を支えること、股関節から少し前に傾いてお尻とお腹で体重を受けることを整えるだけでも、膝の受ける負担は変わってきます。
一人では感覚がつかみにくい、続け方がわからないという場合は、短時間のソフト調整+脱力×連動のトレーニングで、その土台づくりをお手伝いします。膝だけを責め続けるのではなく、体全体の使い方を一緒に見直していければと思います。