「運動連鎖(うんどうれんさ)」という言葉を聞いたことがありますか?
運動連鎖とは、ある一つの関節の動きが、他の関節や筋肉の働きに連鎖して伝わる仕組みのこと。
私たちの体はバラバラに動いているのではなく、つながり合いながら動いています。
専門的には、動きが末端から体幹へ伝わる「順運動連鎖」、体幹から末端へ伝わる「逆運動連鎖」といった考え方もありますが、要はどこか一か所の“使い方のズレ”が、別の部位の負担として現れやすいということです。
肩こりと運動連鎖:肩だけ揉んでも戻ってしまう理由
肩こりは肩の筋肉が固いから…たしかに一面の真実ですが、実は首・肩甲骨・胸椎(背中上部)・肘や手首の使い方が関わります。
たとえば猫背で胸郭がうまく動かず、肩甲骨が上手に滑らない状態だと、肩周りの筋肉は「固めて支える」方向に働きやすくなります。
だからこそ、肩をラクにする第一歩は関節を正しく使うこと。
肩甲骨が前後・上下・回旋で滑る、胸椎が呼吸に合わせてしなやかに動く――こうした前提が整うと、肩の筋肉は自然にゆるむ方向へ。
受け身のマッサージだけでは戻りやすいのは、この“連鎖の前提”が整っていないからです。
腰痛と運動連鎖:腰が悪者ではないことが多い
慢性的な腰痛では、股関節・骨盤・胸椎・足部の使い方がポイントです。
股関節が硬い/足部の支えが不安定/胸郭が呼吸で動かない――これらが重なると、腰だけが代償して頑張ることになり、負担が集中します。
腰そのものを強く揉み続けても、動きの前提が整わなければまた元通りです。
正しい運動連鎖では、立つ・歩く・座るといった日常動作の中で、股関節で重心を受ける/骨盤は固めず微調整する/胸郭は呼吸で柔らかく――この連携が自然と起きます。
結果として腰に頼らない体の使い方になり、負担が分散されます。
膝痛と運動連鎖:膝単体の問題に見えても“上下”がカギ
膝の痛みでは、股関節(上)と足首(下)の協調が要です。
股関節が十分に使えないと膝でねじれを受け、足首が硬いと膝に衝撃が集まります。
動作中に膝だけが内側/外側へ流れる癖があると、周囲の組織に負担が蓄積しやすくなります。
運動連鎖を整えるとは、股関節で方向づけ、足首で地面反力をいなし、膝は通り道として自然に曲げ伸ばしすること。
膝を狙った筋トレやストレッチだけでは届きにくい“本当の使い方”の部分です。
セルフチェック:固め癖に気づく簡単な視点
ひとつでも当てはまる場合、どこか一か所を「固めて」動いている可能性があります。
コツは「力を抜く」よりも、関節を通して力が逃げる道を用意するイメージ。
結果として筋肉がゆるみます。
受け身のケアだけでは変わりにくい理由
医学の世界でも、マッサージや電気治療のみで慢性痛を根本から改善するという考えは主流ではありません。
多くの専門書が重視するのは、「体の使い方=運動連鎖」の回復です。
とはいえ、すべてを自己流で身につけるのは難しいのも事実。
正しく動くための前提条件(呼吸・姿勢・関節の誘導)を、最初に丁寧に整えることが近道になります。
放置リスク:年齢とともに“摩耗”は進む
運動連鎖の乱れは、一か所に負担を集中させやすく、年月とともに摩耗・変性のリスクを高めます。
すべての人に病変が起きるわけではありませんが、今の動き方を見直すことは、将来のリスクを減らす堅実な投資です。
当院の方針:本当の運動連鎖を“体で理解する”
当院は、その場しのぎの長時間マッサージや強い矯正ではなく、関節の滑り・呼吸・重心の通り道を整え、「固めずに動ける」感覚をつくることに重点を置いています。
短時間でも、前提がそろうと体は驚くほど軽くなります。
大切なのは、その軽さを日常動作で再現するコツを持ち帰っていただくこと。
だからこそ繰り返しにくいのです。
まずは一度、正しい運動連鎖を体験してみてください
肩こり・腰痛・膝痛を「その場だけ」ではなく、繰り返さない体づくりへ。
受け身のケアに慣れている方ほど、「なるほど、こういうことだったのか」と腑に落ちるはずです。
あなたの体は、まだ変われます。