自分の腕をもっと磨きたい。
そう思った私は、長野県のとあるスキー場での仕事を選びました。
ケガをしたスキー客がかけこむ救護所兼整骨院。
そこで打撲や脱臼、骨折などの処置を私がひとりで引き受けたのです。
とてもよい経験になりました。
朝は吹雪の中リフトに乗って出勤です。
沖縄生まれの私からすると、なにもかもが別世界で、とても新鮮でした。
白い世界、高い尾根、まるで絵本や映画のような世界でした。
救護所に着くと、無線がはいるまで待機です。
スキーシーズンなので無線は頻繁に鳴りました。
そして搬送用ボートでケガをされた方が運ばれてきます。
見ると手首の骨が折れて反対に曲がっていたり、肩の関節が外れてぶらーんとなっていたりと町の整形外科ではあまり見られないような激しいケガの方ばかりでした。
「大丈夫ですか」と声をかけてもうめくばかり。
相当痛いのは見てあきらかです。
患者さんのためにも、的確ですばやい処置が求められます。
状態を目視と触診で見極め、すぐに処置していきます。
即時判断することは大変難しいですし、プレッシャーもありますが、自分の経験をフルに思い出し活用して、患者さんの負担を減らすことに努めます。
折れた骨や外れた関節を元の位置に戻すというのは、実際は皮膚の上からでは見えない筋肉や骨が、今どういう状態にあるのかというのを見極める技術がなければ成しえません。
私はその技術を身に着けるために、整形外科に勤め、日々の治療業務以外でも自分の体をエコー検査で観察したり、ひたすらレントゲン画像やMRI画像をみてきました。
暇さえあれば人体解剖映像を繰り返し見ました。
それらはすべて、よりよい治療をするため骨格の構造を把握するには必要だと思ったからです。
経験と知識を役立てる場所があるというのは、施術者の喜びでもあります。
多少の痛みは我慢いただいて、なるべくすばやく的確に処置していきます。
そうすれば、治りも早く、結果的に患者さんの為になるからです。
そうして私は冬の間、スキー場の救護所にこもり、たくさんの患者さんと向き合いました。
あの時の患者さんが、今も楽しくスキーに興じて下さっていると嬉しいです。
私はこれからも患者さんのために、技術・経験を役立てていきたいと思っています。